弊社では、お客様のお問い合わせに対応するために、扱っている製品の使用方法を熟知した上で販売を行っております。Terra Mapper(テラマッパー)desktopの機能や性能を把握するために、実際のUAV測量写真を使用し一通り処理を実施しました。また、性能を確認するためにも、ほぼ業界スタンダードとなっているMetashapeとの比較を行いました。
この記事に限ったことではありませんが、公平な観点で比較するように努めました。結論としては、どちらもメリット、デメリットがありますので、利用目的によって選択されるのが良いかと思います。ご参考にしてください。尚、記載内容に誤りがある可能性もありますので、実際に購入を検討するときは、ご自身で実際にお試しライセンスを使用、メーカに確認するなどを行ってください。
機能
下表は、機能一覧の比較(本記事作成時点)です。細かな所は省いて主要な所のみになります。
機能 | Metashape Professional (Ver1.5.4) |
Terramapper (Ver2.9.2) |
写真測量 | 〇 | 〇 |
高密度点群の生成/編集 | 〇 | 〇 |
基準点の設定 | 〇 | 〇 |
スケールの設定 | 〇 | × |
クラス分け | 〇 | × |
フィルタリング(不要物削除) | 〇 | 〇 |
距離・面積・容量 | 〇 | 〇 |
点群・オルソ・DEMエクスポート | 〇 | 〇 |
マルチスペクトル画像処理 | 〇 | × |
NDVI及びその他植生指数の計算 | 〇 | × |
自動処理スクリプト | 〇 | × |
フローティングライセンス (複数サーバでの処理) |
〇 | × |
クラウド処理 | 〇 | 〇 |
Metashapeは古くから航空測量のソフトウエアとして用いられて、i-construction用としても多くの実績がありますし、マルチスペクトル画像処理やNDVIなどの植生計算も可能です。しかし多機能が故、少し操作が複雑でノウハウが必用です。オリジナルの英語のマニュアルではわかりにくい事もあり、良く知っておられる日本人スタッフによる技術サポートが必須です。しかし、多くの機能を持っていますので、広い目的範囲で使用を考えられている方にはとても有効なツールです。保守費含めた価格メリットも大です。
一方、Terra Mapperはi-constructionに特化した機能となっていますが、その分操作はシンプルですので、習得するまでの時間が短時間で済みます。
以下に、いくつか具体例として、操作イメージも含めた機能、性能をご紹介をします。
不要物削除
Terra Mapperのメニュー名称「不要物削除」は、その名の通りの機能になります。操作は、不要物削除のコマンドと、基準となる地面をクリックするのみです。非常にシンプル。
対しMetashapeは不要物削除というよりもクラス分け機能でオブジェクトを認識し、そしてそのクラスを指定してフィルタリングをするという事になります。2工程の操作が必用になりますが、不要物を削除する事も可能ですし、逆に不要物を残すということも可能です。
削除前 | 削除後あるいは フィルタリング後 |
|
Terra Mapper例 (不要物削除) |
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Metashape例1 (地面以外をフィルタリング) |
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Metashape例2 (地面をフィルタリング) |
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上記の例では、Metashapeでは不要物のフィルタリングに取りこぼしがありました。Terra Mapperでは、重機全てと、ある程度草が削除され薄くなっているのがお分かりになるかと思います。(写真が赤いのは選択されたまま資料用にキャプチャーした為です。すみません。)
面積・体積機能
同じ個所の面積と体積を測定し、比較してみました。結論としては、ざっと指定なので多少のずれはありますが、面積も体積もほぼ同じ値となっております。
Terramapperは、図の様に点群を選択するのみで面積と体積が同時に算出できます。
Metashapeの場合は、3Dモデルを測定したい部分のみを残す編集を行い、面積を算出します。その後、空間を閉じる作業(底面)を行い体積を算出します。ちなみに、空間を閉じた面積は、底面積も含まれますので、閉じる前に面積の算出が必要です。
処理イメージ | 面積・体積 | |
Terra Mapper | ![]() |
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Metashape(面積) | ![]() |
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Metashape(体積) (Metashapeの場合、空間を閉じる処理が必要です) |
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断面図
Terra Mapperは、断面図の作成はもちろんのこと、考慮点から外れているアンカーポイントの位置を指定して断面図を修正する事が出来ます。
Metashapeは、断面図を生成する事はできますが、編集機能はありません。
修正前 | 修正中 | 修正後 |
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![]() |
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性能
処理時間
両ツールにおいて、処理時間を比較する上で点群を生成するまでの処理工程に若干相違があります。最初に工程の違いを整理しておく必要があります。
工程の比較
Terra Mapper | Metashape | 機能概略 | |
1 | バンドル調整 | アラインメント | カメラ位置の推定、低密度点群生成。 |
2 | GCP設定 | GCP設定 | 人間がGCP位置と座標を指定します。 |
3 | 位置情報補正 | 最適化 | EXIFによる補正やGCP(基準点)による補正。 |
4 | 点群生成 | 高密度クラウド | 高密度点群の生成。 |
5 | DSM生成 | DEM生成 | 高密度点群からDSM/DEMを生成。 |
6 | オルソ生成 | オルソ生成(DEM or Mesh作成後前提) | Metashapeは、オルソ生成前にDEMもしくはMeshを作成しておく必要があります。 Terra Mapperは、その処理が必要ないので、原理的には点群生成にその処理が含まれていると考えます。そのため、点群生成と高密度クラウドの処理時間は、単純には比較できないのかもしれません。 |
両ツールとも、上記表の1~3番まで終了すると精度が確認できますので、UAV測量業務の実質的なターンアラウンドタイム(TAT)となります。
4番以降は、単なる画像処理、つまり見た目の話なので、単に処理を流しておけば良いということになります。UAV測量以外での目的で、その見た目も非常に大事という場合は、これらの工程もTATに含まれてきます。目的によって大事な工程がどこまでかで、後で述べる処理時間の影響度が変わってきます。
比較条件の詳細
比較はどちらも同じ写真データを読み込み、点群生成を生成し、DEM(DSM)やオルソ生成までの処理時間を比較しました。PCは同じものを使用しています。
ケース |
写真 |
PC |
サンプル1 | ・49枚 1240万画素 ・GCP(評定点)設定あり ・Phantom3撮影 EXIFあり |
・Windows10 Home ・CPU i7-8700 3.2GHz ・Geforce GTX1060 ・メモリ32GB 画像処理PCとしては、並みの性能になります。 |
サンプル2 | ・167枚 2080万画素 ・GCP(評定点)設定なし ・Inspire2撮影 EXIFあり |
Terra Mapper処理時間 Ver2.8.3
モード | サンプル1 | サンプル2 | 備考 | |
バンドル調整 | ハイブリッド (メーカ推奨) |
40秒 | 10分13秒 | |
評定点の設定 (評定点4つ、検証点1つ) |
– | 7分3秒 | – | 人間が設定に要する時間。 |
位置情報補正 | – | 10秒以下 | 2分30秒 | |
点群生成 | 点群数レベル 高 (メーカ推奨) |
19分48秒 | 1時間35分 | |
DSM生成 | – | 10秒以下 | 10秒以下 | |
オルソモザイク | – | 10秒以下 | 1分50秒 |
Metashape処理時間 Ver1.5.4
モード | サンプル1 | サンプル2 | 備考 | |
アラインメント | 精度 高 (メーカ推奨) |
55秒 | 4分19秒 | |
評定点の設定 (評定点4つ、検証点1つ) |
– | 17分50秒 (半自動モード) |
– | 人間が設定に要する時間。 |
最適化 | 10秒以下 | 10秒以下 | ||
高密度クラウド | 品質 高 | 6分15秒 | 1時間9分 | |
DEM生成 | – | 11秒 | 50秒 | |
オルソモザイク | – | メッシュ40秒+オルソ38秒 | メッシュ2分3秒+3分31秒 |
バンドル調整(アラインメント)に関しては、規模が小さい(サンプル1)ければTerra Mapper、規模が大きければ(サンプル2)Metashapeの方が早い結果になりました。
評定点の設定に関しては、弊社チュートリアル用データを使用し、評定点4つ、検証点1つの規模ですがどちらも事前に練習し操作に慣れた上で実施しました。Terra Mapperは、基本的に1評定点当たり写真1枚の指定で良く3枚程度指定すると、あらかじめ読み込んだ評定点の座標により、全評定点を抽出するため、写真一枚一枚を指定する必要がないため、圧倒的に早く終わります(もちろん、その後細かな位置修正が必用です)。Metashapeは、半自動モードでも1評定点当たり10枚前後の写真の確認及び、位置合わせを修正する必要があるため、ほぼ全ての写真を確認する必要があるため時間がかかります。単純計算ではありますが、Terra Mapperは、1評定点当たりに要する時間は85秒、Metashapeは214秒ということなり、評定点の数が増えるほど、トータル時間は比例して大きくなります。
点群生成(高密度クラウド)の処理時間は(再確認したところ)、サンプル1、サンプル2の双方にて、Metashapeに軍配が上がりました。但し、同じ設定の「高」でも、各メーカの味付けは異なるため、本当に同条件で比較出来ているかは正直わかりません。また、Terra Mapperの点群生成は、(Metashapeでいうところの)オルソモザイク生成に必要なDEMやメッシュ作成処理が内部に含まれていると思われますので、その時間も考慮する必要があります。
しかしながら、前述のようにUAV測量の場合は、精度が確認出来る位置情報補正(最適化)までがTATとなります。点群生成(高密度クラウド)の処理時間は、流しておけば良いのであまり問題にはならないかと思います。
一部分ではありますが、「高」で作成した点群からのオルソモザイクを張り付けておきます。Metashapeのほうが地面の細かなデティールがはっきりしている反面、青い重機のシャベルの再現はTerra Mapperのほうが忠実になっています。これは性能というよりも、細かなデティールつまりノイズフィルタリングと再現性忠実度との関係は、相反する関係でバランスをどこで取るかという味付けの問題なのかもしれません。
精度
サンプル1のGCPにおける誤差の比較です。弊社実習用のデータですが、ノートPCでも処理出来るよう、規定オーバラップ以下の最低限の枚数に絞り込んでいるため、検証点では誤差が大きく出ます(特にZ方向)。きちんと撮影された写真では、どちらも良い値が出るのでしょうから、あえて難しい状況のサンプルで行っています。
今回はどちらも、セルフキャリブレーションによる結果ですが、セルフキャリブレーションの味付け方が誤差の結果として出てきます。Metashapeは、全体的に誤差を配分するような傾向で、検証点である5番の誤差を最低限にしているように見えます。対し、Terra Mapperは、評定点はガチっと固め、そのしわ寄せが検証点の5番に来ていると推測しています。
Metashapeでも、少し前のバージョンでは、検証点の誤差は40cm程度出ていましたから、カメラ位置推定などのアーキテクチャーが改良されたのかもしれません。Terra Mapperは、今回は時間の関係上、最新バージョンVer.2.8.4では確認ができませんでした。
Metashape | Terra mapper |
![]() |
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ちなみに、Metashapeでは、セルフキャリブレーションを使用せず、自分で行うレンズキャリブレーションのパラメータによる補正も可能なので、それによっても誤差の出方の傾向は変わってきます。
サポート
ご存じの方は多いとは思いますが、Metashapeはロシアで開発されています。従ってサポートは、日本の代理店の日本人スタッフに頼ざるを得ないかと思います。代理店によっては技術的な内容がわからないため、右から左に翻訳し解決スピードが遅くなる傾向があります。そのため、ライセンスを購入する代理店を吟味する必要があります。
対して、Terra Mappaerは日本での開発とサポートですので、言うまでもなくメーカから直接十分なサポートを受けられるのが大きなメリットです。
ソフトウエア操作を習熟する難易度
操作を一通り覚えるまでの期間を比較すると、Terra Mapperはメーカ付属のマニュアルを使用しておよそ、5~7日位かと思います。対して、Metashapeは英語マニュアルのみだと1年単位、日本語マニュアルがあって2、3か月、弊社トレーニングノート使用して1週間(弊社数年分のノウハウも習得出来ますが..)くらいかと思います。これは、一通りの操作を覚えるまでのレベルということではなく、手になじんでくるレベルというところまでのレベルです。あれを変えればここが変わる、やったことはないけど、あの機能であれが出来るかな?、たぶん出来るなというようなレベルまでです。
i-conに限定すれば、機能的にはTerra Mapperはシンプルで良いのですが、処理時間等、性能的にはMetashapeが優位(規模が大きくなるとその差は大きい)かと思います。しかしながらTerra Mapperは近年リリースされたばかりでこの機能と性能は優秀と言えますし、今後バージョンアップによって性能の改良は進む可能性もあります。
幅広い機能や性能を優先し使いこなしたいということであれば、Metashapeとなるかと思います。特にMetashapeは座標系の機能が強く、楕円体高、ジオイド高などカスタム座標系の設定が可能です。また、ソフトウエアの歴史が長いため、インポートやエクスポートで扱えるデータのフォーマットが他ツールと比較して多いのも強みです。後続ソフトとのインタフェースの親和性が高いと言えます。近年は、UAV測量も大規模化していますので、処理時間も大事な要素になるかと思います。日本に限らず世界的にシェアNo1というのも安心材料です。しかし反面、使いこなすには技術サポートが重要です。
ソフトウエア選択の一助となれば幸いです。
以上です。