2024年10月14日、GreenValley International の皆さんと、LiAir H800のフィールドテストを札幌にて行ってみました。詳細は、後日動画をアップデートしますが、本テストでの性能、測量精度をご参考にください。
本記事冒頭の画像は、LiAir H800で取得した点群のRGB表示です。
LiAir H800の概要
LiAir H800は兼ねてから非常に興味がありました。H800は登場して間もないのですが、Matirce300/350Rに搭載できるLiDARの中で、SPECは特筆するものがあるからです。例えば、100m先のスポットサイズは半径2.5cmの〇型(Zenmuse L2は4×12cmの長方形であるため、面積比は40%)、リターン数は無限(実際には7)です。レーザは広がりながら進む特性がある為、この特性がZ方向の誤差原因となりますがこれがかなり抑えられており、リターン数も多いことから、高高度でも精度が出やすく、かつ植生部においても地面の抽出精度が高いという事が想像できます。これらを確認してみました。
LiAir H800のSPECの詳細は、リンク先をご参照ください。
フィールドテスト
知り合いの会社様の敷地をお借りしてテストしました。向かって道路から右側の茶色建物がある敷地と森林(山)があるところになります。
LiBase(後処理用データの取得)の設置
GCPの設置(テストの為、〇型、十型の標識を設置しています)
GreenValleyの方がMatirce300にH800を取り付けています。
測定条件
自動飛行するためにLiPlanというアプリがあり、リアルタイムで点群の取得状況が見えます。また、高度とフライトスピードを設定することにより点密度が表示されます。
今回、時間制約により多くの条件でテストは出来ない為、高いSPECから最低限フライト高度70m、フライトスピード5m/sで満足のできるデータが取れればOKと考え、これらの値を設定し、点密度1198/m2としています。実際にはどうなるのか、後で確認します。
ちなみに、UAV搭載型レーザースキャナを用いた公共測量マニュアル(案)令和2年3月改正で要求される点密度は、もっとも厳しいので数値地形図データ(地図情報レベル 500)の作成に用いるオリジナルデータにて400 /m2 以上となっています。以下に抜粋を記載します。
成果品目 | 要求点密度(標準値) |
グラウンドデータ グリッドデータ 等高線データ (植生の影響が小さい箇所) |
10~100 点/m2※1 |
グラウンドデータ グリッドデータ 等高線データ (植生の影響が大きい箇所) |
20~200 点/m2※1 |
数値図化(地図情報レベル500) | 400 点/m2 |
数値図化(地図情報レベル1000) | 100 点/m2 |
データ処理
H800で取得した生データは、付属のLiGeoreferenceで処理を行う必要があります。この処理では、PPK処理、ジオリファレンス、ビジュアル化が行われます。もちろん、ジオリファレンスは、日本のJGD2011も座標も設定出来ます。
その後、LiDAR360にてボアサイトキャリブレーション(FOVカット含む)などの後処理を行います。LiDAR360の詳細は、リンク先をご確認ください。
結果
上記条件にてフライトを行い、LiDAR360にてボアサイトキャリブレーション後、レーザの反射波がどこまで地面を捉える事が出来るのか、地面の厚みがどの位なのか等を観察してみました。
断面
道路横の草の状態は、背丈ほどの高さがあり、どの位ここの地面を捉えているのかをポイントとして観察しました。完全ではない部分もありますが、全体としてかなり良好だと考えます。以前検証したLiDARは、膝以下の高さが実用域でした。(もちろん、草の高さだけではなく、密度、葉の形状、レーザの入射角などにも依存するため、一意には決まりません。)
この近辺の断面を更に複数観察しました。
地面などの厚み
色々な場所の地面の厚みをワースト的に測定しました。
上図右側の木と木の間の砂利の道路(厚み5.2cm)
アスファルト道路(厚み1cm)
屋根のトタンは、波の形状となっており、若干点群でも見えます。下図は、波の部分の厚みです。
三脚の上に設置した標識も綺麗に形が出ていることがわかります。
点密度
アプリ上の点密度は1198/m2でしたが、実際にはどのようになったかを確認を行ったところ、LiDAR360処理後のデータにて、アスファルト道路や地面の上で2,000~3,000、植生上(地面に近い所)では2,000~5,000の密度となっていました。測る場所によって結構ばらつきはしますが、概ねアプリ設定値の2倍の余裕度はあります。
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地面の上 | 植生の上 |
LiDAR360処理前のデータは、点群の重複があるため、7,000~20,000万以上の密度になります。アプリが示す値は、重複データを削除後の値のようで、実際、アプリ上の点密度は、オーバラップの値には依存しなく、高度とスピードのみに依存します。
仮に高度を100m、フライトスピード5m/sの場合、アプリ上の点密度は839/m2となります。高度70mでも十分山岳地帯ではセフティマージンはあると思いますが、山岳地帯でもっとマージンを取りたい場合は、高度100mという選択肢も十分実用域と思われます。
対空標識の見え方
写真測量並みにくっきりと分かります。
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精度
LiGeoreferenceの処理(LiDARの生データをビジュアル化、座標化、PPK処理)後、調整点3つ、検証点1つにて確認しましたところ、以下の結果となっておりました。これらの値は、調整点による調整前の値であり、かつ簡易的に測定(Z方向は1ポイント測定)したものです。
点名 | X | Y | Z | |
1 | 0.027 | -0.021 | 0.04 | 調整点 |
2 | 0.002 | -0.031 | 0.043 | 調整点 |
3 | -0.031 | -0.017 | 0.003 | 調整点 |
4 | -0.004 | -0.038 | 0.033 | 検証点 |
次にLiDAR360にてボアサイトキャリブレーションなどの後処理を行い、その後、UAV搭載型レーザスキャナを用いた公共測量マニュアル(案)平成30 年3 月(令和2 年3 月改正)に従って、調整点によるXYZの調整を実施しました。結果は、下記の通りです。
調整点検証精度管理表(標高)
番号 | 点名 | 調整点の標高 | オリジナルデータの平均標高 | 較差 |
1 | 1 | 170.925 | 170.915 | -0.010 |
2 | 2 | 170.354 | 170.336 | -0.018 |
3 | 3 | 168.839 | 168.870 | 0.031 |
データ数 | 平均値(m) | 最大値(m) | 最小値(m) | 最大値 - 最小値 |
標準偏差 | ||
計測範囲全域の 調整点との差 |
3 | 0.001 | 0.031 | -0.018 | 0.049 | 0.021 |
調整点検証精度管理表(水平精度)
番号 | 点名 | 調整点の 水平座標 |
オリジナルデータの 水平座標 |
調整点とオリジナルデータとの差 | ||||
X | Y | X | Y | ΔX | ΔY | ΔXY | ||
1 | 1 | -72619.985 | -116599.199 | -72619.992 | -116599.212 | -0.007 | -0.013 | 0.010 |
2 | 2 | -72621.825 | -116555.904 | -72621.828 | -116555.896 | -0.003 | 0.008 | 0.006 |
3 | 3 | -72677.512 | -116518.749 | -72677.512 | -116518.749 | 0.000 | 0.000 | 0.000 |
データ数 | 平均値(m) | 最大値(m) | 最小値(m) | 最大値-最小値 | 標準偏差 | |
計測範囲全域のXの差 | 3 | -0.003 | 0.000 | -0.007 | 0.007 | 0.003 |
計測範囲全域のYの差 | 3 | -0.001 | 0.008 | -0.013 | 0.021 | 0.009 |
計測範囲全域のXYの差 | 3 | 0.006 | 0.010 | 0.00 | 0.010 | 0.004 |
マニュアルでは、検証点は調整点以上の配置が必要という定義があります。今回は1か所のみで最終的な誤差は以下となりました。XとZは、平均値と標準偏差から鑑みると少し開きがありますが、検証点を調整点と同様の数にすることで調整点の平均値±標準偏差内に収束していくものと見られます。
点名 | X | Y | Z | |
4 | 0.012 | 0.004 | -0.031 | 検証点 |
LiDARの測定結果は、検証点での誤差のみで比較するのではなく、平均値、最大値ー最小値、標準偏差も見る事が大事になります。それを複数見ていく事でそのLiDARの実力が把握できるはずです。
各処理後の状態
H800で取得したデータは、①Ligeoreferenceにて前処理を行い、その後、②LiDAR360にてボアサイトキャリブレーションなどの一連の後処理、そして最後に③調整点による調整を行う流れになります。各ステップでの状態を以下に示します。(全て掲載するのは大変なので、調整点2つだけ示します)
1 | 2 | |
①Ligeoreference後 (Top View) |
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①Ligeoreference後(Side View) | ![]() |
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②LiDAR360後 (Side View) |
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③調整後 (Top View) |
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③調整後 (Side View) |
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LiAir H800の利点
これは、LiAir H800だけではなく、GreenValley InternationalのLiAir製品共通の話になります。LiAirシリーズのRTK動作は、現場に基地局(LiBase)を設置し基地局データを作成します。その基地局データと設置した基地局(LiBase)の正確な座標をLiGeoreferenceに入力することで、LiAir H800のデータ(単独測位)をPPK後処理します。尚、基地局として、LiBaseの変わりに3rdメーカのStatic観測が出来るGNSS受信機でも使用出来ます。
機体と基地局は通信による接続はされていませんので、例えば長い河川や道路など、複数ブロックに分ける場合、真ん中のブロック付近に設置するなど、全ブロック共通の基準とすることが可能です。基準が一つという事は、基準に含まれる誤差への影響は排除できますので、ブロック間のZ方向の段差への影響を小さくする事が出来ます。また、機体とLiAirH800の測位システムはそれぞれ独立していますので、機体を精密飛行させたい場合は、D-RTK2を使用して飛行することもできます。つまり、複数ブロックに分けても、基準点は共通に出来ますし、機体の制御はRTKと、双方の良いとこ取りをする事が出来ます。Zenmuse L2+D-RTK2組み合わせは、DRK2内部から.DATを取り出して、なんちゃってPPKをすることは可能ですが、その仕組上、基準点を共通にすることは出来ません。
所感・まとめ
SPEC同様、実際のデータにもその効果は認められました。まとめますと、以下の利点があります。
- スポットサイズが小さく、点数が多いため下記のような多くの利点がある。
– 高度を高く出来るため、山岳部においても非常にセフティマージンがある。
– 点が非常に多いため、Photogrammetryの様に点群を扱える。
– Z方向がばらつかない(地面の厚みが薄い)。 - リターン数と点数が多い為、植生部に強い。
- ブロックを分けた測定でもZ方向の誤差に強い(ブロックを分けても、LiGeoreferenceでは複数基準点モードがあり、LiDAR360でもブロック間段差の補正が出来る)
山岳部、河川、道路などを作っていくところなどには、強力な武器になるかと思います。
尚、今回LigeoreferenceのPPK処理では、LiBaseのデータにて補正を行いましたが、同じ場所の仮想点データ(ジェノバより購入)したところ、値のばらつき方に多少差は有りましたが、誤差の範囲としてはほぼ変わりはありませんでした。日本の環境でも使用出来る事が確認出来ました。
動画
本ページでは、結果のご紹介のみですが、動画では現場の測定の様子や、後処理に関しても詳細に解説しています。
1.GreenValley International LiAir H800 -現場測定編-
2.GreenValley International LiAir H800 -LiGeoreference処理編-
3.GreenValley International LiAir H800 -LiDAR360処理編-
以上です。