弊社のブログでは、i-construction(以後、ICTと記します)関連の記事や販売を行っておりますが、特に3Dモデリング関連の問い合わせ・注文は多く、関心が高い分野とつくづく感じます。土木、建築のコンサル様、測量会社様はもちろん、土地家屋調査様等、広い分野の経営者様が多いのが特徴です。
今後、ICTの普及に伴ってこの分野でのドローン導入は更に進んでいくかと思いますが、ドローン導入を考えられている経営者様向けに、弊社の経験を元にしたドローン導入のコスト、課題をまとめてみたいと思います。
それぞれ会社様の経営戦略や業務状況は違いますので、自社でドローンを導入したほうが良いのか、必要なときに我々のような会社を使えばよいのか、判断の一助になればと思います。
ドローンの市場
ドローン導入コストを考える前に、ドローン全体の状況を知る必要があります。この状況を知る事は、導入を検討するうえで一つの材料になると思います。
ドローンの市場規模は、2014年に世界で11億ドル、年率30%の上昇を続け2020年には60億ドルと言われています。
ドローンの主要なメーカは、DJI(中国)、Parotto(フランス)、3DRobotics(米国)がありますが、この中でもDJIは圧倒的なシェアを持ち、2015年ロイター通信記事によると、世界の商用市場のシェア70%を獲得と伝えられています。DJIは圧倒的な性能と開発スピードのため他社の追従を許さず、ドローン業界は、DJIを抜きにしては語れないのが今の状況です。
DJI ドローンの開発傾向
画質の向上
DJIの稼ぎ頭はファントムシリーズと思われますが、ファントム1をリリースして以来、ここ数年で飛躍的な進化をしました。初代はアクションカメラで有名なGoproカメラの搭載でしたが、ファントム2 Visionよりカメラを自前で開発し、ドローン用の軽量高性能なカメラを搭載してきました。年々映像のクオリティは進歩しておりますが、ファントム4 PROでは、CMOSセンサー(人間で言う所の目)は、これも世界シェア1位のソニー製 裏面照射型 ExmoreR 1インチCOMSセンサー(2000万画素)を採用しているようです。半導体分野ではソニーはあまり知られていませんが、唯一CMOSセンサーにおいては、世界において他社より群を抜いたプロセス技術・性能を持っています。一流は一流のものを使用するという事でしょうか。
操縦性能・安全性の向上
映像のクオリティと共に進化をしてきたのが、操縦のしやすさ、安全性に関してです。今のDJIドローンは、障害物回避機能により、障害物に対して自動でストップあるいは、回避して飛行するようになっています。木の枝、電線など細い物に対しては状況により検知出来ない場合があるため過信は禁物ですが、いざという時にはかなりの確率で有効です。ファントム4PROでは、5方向(下、前後、左右)に対して障害物センサが付くようになりました。
ファントムは1kgクラスに分類されるドローンですが、3~4kgクラスとしてはInspire、Matrice200(以後、M200)、8kg以上クラスはMatrice600Pro(以後、M600Pro)があります。3~4kgクラス、8kg以上クラスどちらも共通しているのは、バッテリの複数化、GPSやフライトコントローラの複数化となっており、一つが壊れても他がリカバリーし安全に飛行できるという実機並みのフェールセーフシステムを採用しています。これは、今後1kigサイズにも反映されていく可能性があります。
産業向け機能の強化
従来のドローンは、カメラは機体下部にしか装着出来ませんでしたが、M200では機体の上にも装着出来るようになり、建築物の点検に使用する際、上を見ることが出来ないという欠点を改善してきました。また、機体下部搭載カメラも従来は一つしか搭載出来なかったのに対し、M200では二つ搭載できるようになり、例えば赤外線と通常カメラの二つの搭載が可能になりました。また、防水設計や氷点下でもバッテリーを温める機能も付くなど、より環境が厳しい条件でも飛行できるようになってきました。
このように、ここ一年ほどで従来の映像系メインから産業用を強く意識したドローン開発の傾向に大きく変わってきています。産業用に特化した開発はまだ始まったばかりですから、まだしばらくは進化していくと思われます。
今後の進化
ドローン用カメラに限った話ではありませんが、通常カメラは動画用、あるいは静止画用のどちらかに特化しているのが特徴です。両方高性能なカメラはいままで存在していません(なぜならば、画像プロセッサの設計が全く異なるからです)。ドローン用カメラは、今までは動画に特化したものであったため、今後は高画素な静止画用に特化したカメラを開発してくる可能性はあると思います。高画素静止画カメラは、写真測量や点検業務に必須だからです。
また、DJIは赤外線カメラはリリースしていますが、これから本格化する精密農業に向けてマルチスペクトルカメラも開発してくる可能性があります。現在は、ParrotoがSequoiaを、MicaSenseからRedEdgeリリースがリリースされています。
更に、後述するD-RTK GNSS-Gとフライトコントローラの性能次第では、ドローン測量の最大ネックである標定点の設置が不要になっていく可能性もありますので、DJIが3Dモデリング処理を行うソフトウエアを開発し、リアルタイムでクラウドにデータを転送しリアルタイムで処理をさせるという、ドローンの強みを生かしたトータル的なシステムを構築しても不思議ではありません。
ちなみに、話は少しそれてしまいますが、トプコンでは、標定点不要にするためにドローンの正確な位置を計るための自動追尾型トータルステーションを今年の1月に発表しています。ドローン測量は人手による困難場所に有効ですが、標定点の設置はそのメリットをつぶしていますから、このような形での進化は素晴らしい事です。
今後は、このような課題解決に向けて、計測装置メーカや光学メーカといった各分野のエキスパート企業とDJIがコラボすると、ますます進化していくだろうと思われます。
ドローンの導入コスト
次の前提で考えていきたいと思います。
- 土木、建築、測量会社様の業務
- 今までラジコン含むドローンの扱いや操縦経験がある社員がいない
- まずはオペレータを1~2人の養成を含む2~3人程度のチームを構築
- 点群処理のソフトウエアを導入し3次元データを生成
直接の金額というよりは、必要な物という考え方で記載していきます。金額は現時点での金額を確認し記載していますが、構成により大きく変わりますので、おおよそのイメージで捉えてください。
機材関連の費用
例えば、建築物の点検やドローン測量を考えてみると、カメラはそれなりの良い物ではなくてはなりません。画質が悪いがために点検を見逃した、測量の精度が出なかった・・・では話になりません。ファントムを使用した測量も、国は「否定はしないが推奨はしない」という事からも、出来るだけ良い画質、歪の少ないレンズを使用するのは基本です。それから考えると、3~4kgクラス以上のレンズ交換可能なタイプのカメラが最低必要ラインと考えます。
DJI製の場合、3~4kgクラスはInspire2とM200が相当しますが、M200はまだ価格発表されていませんので、Inspire2で考えるとカメラ含めて約70万、加えて、バッテリは一度に2本使用しますので、ざくっと10セット購入で約35万、計100万程度になります。
一眼カメラを搭載できる8kg以上クラスは、今の最新機はM600Proですが、機体のみで60万、制御装置は選択する性能により大きく差がありますが、最低限必要なA3+LightBridge2のセット他で20万、ジンバルが12万、バッテリは1度に6本使用しますが1セット(6本)約10万×必要セット分になります。加えて一眼カメラが20~40万必要になりますから、バッテリ抜きでも計110万~130万してしまいます。バッテリ(最低5本~10セットは必要)含めると200万以上になります。
M600Proの場合、最新のA3Pro(フライトコントローラ)およびD-RTK GNSS-G(数センチ単位のGPS及び自律飛行させるもの)が使用できますが、これは70万弱します。個人的には現時点でD-RTK GNSSーGの装備の必要性は感じませんが、今後これにより標定点が必要なくなるという事であれば、導入メリットは出てくるかもしれません。
3~4kgクラスも8kg以上クラスも共通ですが、1台だけでは故障、あるいは墜落した場合に仕事が出来なくなりますので必ず予備機は必要ですし、タブレッドも複数台やバッテリを複数本同時に充電するための充電器等、別途の購入が必要です。
尚、経験上からの話ですが、タブレットはピンからキリまでありますが、海外製の安い物を使用すると、夏場に内部の温度が異常に上がり突然シャットダウンしたり、冬は気温が低くなるとタブレッド内部のバッテリーが性能低下し使用できなくなります。(バッテリーの質や、セット内部の熱設計がプアなための問題です)。
弊社ではこのような経験があったため、現在ではiPad Proを使用していますが、高価なだけあって信頼性が高く、このような事が発生しません。iPadも大きさやグレードにもよりますが、安いところでも9インチで6万前後ですが、2~3枚用意しておく必要があります。可能であれば、iPadと有名メーカのアンドロイド両方保有しておいた方が良いです。(これも理由がありますが、ここでは省略します。)
もしドローン経験者がいなければ、練習用の1kgサイズのファントムを別途購入する必要があります。これはPHANTOM3とかPHANTOM4等の型遅れの新品か中古でもよいと思います。
練習用に同じDJIを推奨しているのは、操縦の仕方はもちろん、機体の取り扱い方やアプリの使い方、ファームの更新など、メンテナンスの習熟含めて同じDJIのもので練習をした方が良いからです。また、国交省のドローンの規制許可を取るにも最低10時間の飛行時間が必要となりますから、ネットやおもちゃ屋等で売られている数千円程度のドローンではなく、練習に耐えられるきちんとしたものを使用する必要があります。
保険費用
ドローンを飛行させるには、保険に入る必要があります。空を飛ぶものは墜落するリスクがありますので、対人、対物の保険に入る必要があります。DJIの場合は、購入初年度は無料のDJI無償付帯保険が付いてきます。また、DJIでは機体自体にも保険に入る事ができ、購入費用(保険金額)の約7%~で保険に加入することが出来ます。これは、墜落時の修理費用や修理不能であれば新規購入費用を負担してもらえます。但し、登録していないと保険は適用されません。
こちらから手続きできます。https://aeroentry.co.jp/
メンテナンス費用
意外にかかるのが、このメンテナンス費用です。国産品とは違って海外製のものは信頼性が悪く、墜落等の衝撃を与えなくても突然画像が映らなくなったり、制御装置が壊れたりします。弊社でも1年使用以内に、インスパイア1とファントム4を修理に出しています(墜落させた訳ではありません)。上記で記載した機体の保険に入っていれば、ほとんどの修理費は出ますが、免責金額(保険金額の2%)は必要になります。
もちろん、ドローンを初めて飛行させる方は、墜落は1、2回経験すると思いますから、その修理代も考慮しておく必要はあります。
費用から話はそれますが、DJIの場合、修理に必要な期間は、以前は中国本土まで送付していたため、2~3か月の時間がかかっていました。今では日本国内に修理センターが出来ましたが、それでも1か月程度は必要です。この修理は、閑散期であれば問題ありませんが、繁忙期と重なってしまうと、1機だけの運用はどうするか、という問題もあります。
モデルチェンジ等もありますため、導入された会社様では、お試しのつもりがいつのまにか多くの機種をもっているという事も多いかと思います。安易な導入は要注意です。
減価償却
他の資産と違い、少し特殊な事情があるのがドローンの減価償却です。法律的な耐用年数は置いておき、実際にはどの位で減価償却する必要があるか?です。弊社の経験としては、もって1年半~2年です。今は半年に1回程度のモデルチェンジが入りますので、1年保有していると、2世代位前のドローンになってしまいます。2世代前になると現実的にはもう資産価値はありません。
ドローンの開発傾向でも述べましたように、モデルチェンジの度にカメラの性能、制御装置の信頼性(フェールセーフ)は高くなっています。また、1年使用すると壊れる可能性も高くなってきますので、古い機体に修理代をかけるのも費用対効果は低いですから、目標1年程度で償却するのが良さそうに思います。
ソフトウエア
SFM処理を行うソフトウエアとして、弊社ブログでも以前ご紹介しましたが、有名なのはPIX4DMapper及びPhotoscanです。また、測量用の作られたトプコンのImageMasterがあります。ImgeMasterは、2017年2月にi-construction向けに点群統合型ソフトのMAGNET Collage(レーザスキャナ、UAV、MMSの点群を一元管理)というものに変わりました。
単にドローン測量のみであれば、PIX4DMapper、Photoscan、MAGNET Collage(UAS機能のみ)という事になりますし、レーザスキャナ、MMSも含めたいという事であれば、MAGNET Collageのベーシックを選択ということになります。MAGNET Collageの費用は公表されていませんが、前ソフトウエアのImageMasterで80万台でしたから、MAGNET CollageのUAS機能のみで同等程度という所でしょうか。Photoscanでも50万台~となります。
どのソフトを導入するかは、各社で行われている業務内容によって変わってくるかと思います。保守サポートも1年目は無料ですが、2年目以降は年間十万単位でかかるので、要検討事項になります。
研修費
DJIでは、DJIキャンプというドローンの研修を行っています。座学等のみであれば半日の研修もありますが、DJIスペシャリストコースでは2日間の研修で、技能証明発行費用含めて約10万程度となります。結構お高いですが、初めてドローンを扱う人は、受講すべきだと思います。(墜落事故が起きた時に、基本知識がありリスクヘッジを可能な限り行って起きた事故と、何も知らない・対策もしてない で起きた事故とでは、過失の度合いは大きく違います。)
人件費他
算出が難しいところですが、業務中にドローンの練習をするのであればその人件費、上記で述べた研修に参加するのも人件費や出張費用はかかります。ドローンに興味がある人は、業務中ではなく休日に練習する人もいるかと思いますが、周りの会社様を見る限り、社員の中にそのような人がいるのはまれなようです。
また、ドローンの練習をするには、ある程度広い場所が必要です。どこかのラジコンクラブの会員になって飛行場を借りさせてもらうのも手です。当然、入会金や年間数万円の年会費が必要になります。
その他、ドローンを会社で運用するには、多くの工数が必要です。国土交通省への許可を取るための資料の準備や練習(最低10時間)、国土交通省への定期的な報告、機種が変われば再申請、機体の点検、ファーム更新などがあります。
申請に関する詳細は、弊社のサイトでも以下にまとめています。
https://kuu-satsu.com/drone-permission/
最後に
今回は、費用についてのお話でしたが、初めて導入する方にはわからないことが結構多くあると思います。知人に詳しい方がいれば、その方に見てもらった方が絶対に良いと思います。
今回は、課題までまとめる事は出来ませんでしたが、時間を取り別途まとめたいと思います。今回のまとめの中にもエッセンスは結構入っていますが、運用上の課題、技術的な課題は多くあります。導入判断においては、コストよりも運用上の課題の方が大きいかもしれません。
以上です。