Zenmuse P1 測量の精度が出ない問題

今回は、道内の建築会社様で起こった問題です。本お客様は、弊社をごひいきにしていただいており、ファントム4RTKやMatrice300 RTK、Metashape、水中ドローンなどをご購入いただいているUAV測量のプロフェッショナルの会社様です。

今年(2021年)の春にMatrice300 RTK +Zenmuse P1(以下P1)を納品し、最近まで問題なくUAV測量を行っていたとの事ですが、最近とある現場で測量の精度が突然悪くなる問題が発生しました。その方は、Metashapeを使用しており、その現場の写真枚数は750枚でした。問題の経緯は、以下です。

  1. 12月上旬、P1を使用し、地形モードにて、UAV測量を行ったが精度が非常に悪い(誤差:場所により数十センチ~1mほど)。
  2. 上記の相談を受け、再撮影に関して注意を行うことはあるか?ということなので、現場の状況をお聞きし、P1であれば、地形モードではなく、一定高度での撮影も可能(P1は、1.0 pix/cm @ 高度80m)なので、まずはそれを行ってみては?というアドバイスをしました。
  3. 再撮影後、連絡があり、高度一定でも精度が出ないとのこと。再撮影時にお客様は、念のためにファントム4RTKでもUAV測量を行っており、こちらは問題なく精度が出たとの事です。ちなみに、P1でも写真の座標を全く使用せず、GCPのみで補正をかける分には精度が出るが、写真の座標も含めると精度が出ないという状況なので、Metashapeの設定を確認するも問題はなし。(日ごろからサポートしているので、そこではないだろうなと思いつつもですが…)
  4. 現場では、既知点にD-RTK2を設置して行っているとの事ですが、ファントム4RTKとMatrice300 RTKでは、使用しているD-RTK2は変えていることから、D-RTK2もしくは、機体側などのRTK受信側に何か問題が発生してカメラ座標の精度が悪くなっているいう推測を立てました。(結果的にはこの推測はあっていましたが、根本原因はD-RTK2ではありませんでした)
  5. 上記推測の確認のために、写真を頂き、弊社にてPPK-Goにて後処理補正を実施し、お客様にて再度Metashapeを実施してもらいました。D-RTK2関連で座標がおかしくなっているのであれば、後処理補正を行えば、精度が出るのでは?と考えたからです。後処理結果は下図のようにすべてFixedになりました。

    しかし、それもむなしく、後処理後のMetashapeでも精度は出ず、D-RTK2や受信側の問題ではありませんでした。じゃあ、なぜ精度が悪くなるのか…? 北海道の真冬の気温でレンズに異常なゆがみが発生しているのか…? (ちなみに、カメラやレンズは、さまざまは素材で構成されていますので、温度に対する各素材の膨張/収縮率の違いにより様々なひずみが発生します。これが写真測量に対する誤差原因となります。この誤差は、カメラ動作中、機器内部の温度上昇でも影響すると言われており、撮影中の最初の写真と最後の写真では、カメラパラメータの推定量が変わってきます。MetashapeやRealitycaptureは、この現象に対する推定オプションを持っていますので、RTKで撮影した写真でも高い精度を出します。)
  6. 上記結果を受けて、念のため頂いた写真のXMPを確認しましたところ、Rtkflag=1と見慣れない数字がありました。ここは、通常RTKが正常に受信していれば、50となります。また、ShutterType=””Electronic”、つまり電子シャッターとなっています。電子シャッターは、ローリング現象が発生するため精度悪化の要因ではありますが、写真の座標は後処理をしているため、そんなに影響するものなのか?と思いつつも、念のためDJIに確認を入れました。(*注:産業機の場合、エンドユーザ様は代理店経由でお問い合わせください)
  7. 数日後、DJIから連絡があり、上記の状況下にある場合、位置補正・時刻同期が機能しておらず、精度が下がるとのことでした。なるほど、位置補正が機能していない場合、後処理を行えば補正できますが、時刻同期が機能していなければ、後処理も役に立たなかったというわけです。
  8. お客様に確認しましたところ、過去精度がよかった時の写真のXMPは、ShutterType=””Mechanical”、機械式シャッターとなっていたということでした。この時点で、12月中旬となっており、北海道は少し前に大雪が降ってしまったので、同じ現場での再検証することはできなくなりましたが、原因はこれで間違いないようです。お客様から聞いている話とつじつまがあっており、逆に考えますと、写真の座標を含めて精度が出ないということは、Metashapeの処理を正しく行っていたということになります。Metashape君は、解を出せなかったというわけです。よくできています、ほんとに。

原因は、電子式シャッターだった訳でしたが、お客様はここの設定は、いつも触らないということでした。もしかすると、ファームアップデートなどによりカメラの設定にリセットがかかってしまったのかもしれません。P1はメカニカルシャッターはデフォルトOFFとなっているので、リセットがかかってしまう場合は、OFF側に働いてしまうので、ご注意ください。

結論としては、原因はとても単純な話でしたが、今回はUAV測量になれたお客様でしたので、Metashapeの扱い方には問題がなくすぐに原因にたどり着くことができました。そうではない場合は、もっと時間を要していたと思います。

なお、今回の教訓としましては、撮影前にシャッタータイプの設定を確認し、撮影後は、写真の最初と最後くらいは、XMP内のRtkflag=50、ShutterType=””Mechanical”になっているかを確認したほうがよさそうです。

弊社の「Matrice300RTK UAV測量設定マニュアル」にもフィードバックしました。このような小さな話ですが、積み重ねてまとめていくことで、とても有効なマニュアルになっていきます。

ご参考になれば幸いです。

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