ドローンの基礎知識

一口にドローンと言っても幅広い知識が必要になりますが、これからドローンの仕事に携わる方、既に携わっている方を前提としてドローンの一般知識、構造、飛行のしくみ、飛行特性についてまとめてみました。

ドローンとは

ドローン(Drone)とは通称名(雄の蜂の意味)であり、正式名称は、unmanned aerial vehicle もしくは unmanned air vehicle 略してUAV、日本語では『無人航空機』と言います。

以前の日本では、ドローンよりもUAVと呼ばれる方が主流でしたが、2015年4月 首相官邸にUAVが墜落した事件にて、メディアはドローンと呼んだ事から一般的にはその名が主流になりました。元々欧米では、ドローンと呼ばれていた背景によります。

無人航空機の定義

その正式名称である無人航空機の定義は、2015年12月に施行された航空法改正により、次のように定義されています。 航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により、飛行させることができるものをいう。

この定義から、従来からあるラジオコントロール(通称ラジコン)の飛行機、ヘリコプタ、飛行船等も無人航空機の扱いになります。ただし、機体の重量200g以下は無人航空機の扱いにはなりません。

注:令和4年6月20日から、重量100g以上の機体が「無人航空機」の扱いに変わり、飛行許可承認申請手続きを含む、航空法の規制対象になりました。

無人航空機として航空法で定義する事で、取締りを強化し事故を防ぐという事になります。なんだか、ネガティブですが、ドローンの登場によって、ところ構わずドローンを飛ばす人が増えてしまったから仕方がないというところでしょうか。

無人航空機の種類

一般的に構造的な観点から、飛行機は固定翼、ヘリコプタは回転翼といいます。この回転翼にはさらに種類があり翼に相当するロータが一つのものはシングルロータ、つまりヘリコプタをいい複数のロータを持つものはマルチコプタとも呼ばれます。

狭義的にはドローンはこのマルチコプタを指しています。 広義的には、ドローン=無人航空機の意味合いでも使われますので、飛行機もヘリコプタもドローンといわれることもあります。 尚、本ブログでは前者の意味合いで使用します。

ドローンの種類

ドローンにも色々な種類があります。 ロータの数による分類では、ロータが4枚のものをクワッドコプタ、8枚のものをオクトコプタ、6枚のものをヘキサコプタと言います。基本的に大型のドローンほどロータ数が多くなります。

機能別でいいますと、カメラを搭載した撮影用、速さを競うレース用のもの、農薬散布用というものも開発されてきています。

それ以外にも、検査用として狭いところに入っていけるように機体全体をワイヤーで囲ったものとか、水面に着水できるというものもあります。

飛行のしくみ

ドローンは例えばクワッドコプタであれば、4枚のロータで上昇、下降、前進、後進、横移動、向きを制御します。飛行機やヘリコプタのように直接翼やロータを動かす舵というものがありません。ドローンは各ロータの回転数をそれぞれ制御することで機体の動作を制御します。

ドローンにはフライトコントローラが内蔵されており、このロータの回転数を緻密に制御しています。機体を制御するためには、最低限にはジャイロセンサ(角速度検出)の情報をもとに制御されます。これがもっとも原始的なドローンですが、高級なドローンですと、気圧高度計、GPS、コンパス、赤外線センサー等によって機体を制御しています。

個別に販売されているDJI社のA2フライトコントローラ

ここでは細かな制御の仕組みまでは省略しますが、重要なポイントはこのように電子機器で緻密に制御されているが故に、もしこの電子機器にトラブルが発生したら、コントロールが難しくなるという事です。本物の航空機でも機体トラブルによって墜落もあるのですから、模型であるドローンを過信する事は禁物です。

操縦のしくみ

ドローンは、無線電波によって遠隔制御を行います。有線と比較して遠くまで手軽に飛行できる反面、微弱な電波にて操作を行うため外乱に弱いというデメリットがあります。ここではこのデメリットに関して掘り下げていきますが、その前に少しだけこの電波の法規制について解説したいと思います。

日本には電波法というものがあり、通常電波を発信する機器を使用するには、免許が必要です。しかし一定の要件を守って製造された機器は、免許がなくても誰でも使用できる仕組みが存在します。

例えば、Wireless LAN、コードレスマイク、コードレス電話、コードレスのUSBマウスといった機器は、だれもが自由に使用しています。これらの製品は免許無しでも使用出来るように、下記写真のような技適マークというものがついています。

これはメーカがあらかじめ、この製品は「日本の電波法の技適ルールに沿って作ったものですよ」と申請を行い、総務省が「はい、よいですよ」とその承認をした証明です。電波を使用していますが、免許がなくても使用できるという訳です。技適がついたこれらの機器は、日本ではほとんどが2.4GHz帯の周波数が使用されております。

この電波法は、日本と外国では差があり、技適として認められる要件にも差があります。例えば5.8GHz帯は外国では許可されていますが、日本では現時点(2017年1月)で許可されていません。しかし、この5.8GHz帯の製品は実状として日本に多く輸入されています。免許無しにこれら製品を使用する事は法律違反となります。

さて話を戻しますと、ドローンは無線を使って遠隔操作をしますが、その操作をするものが下記の写真にあるようなプロポというものです。送信機とも言います。操縦の指令を電波でドローンに伝える役目をしています。

ドローンに対応しているフタバ製T14SGプロポ

実はこのプロポ、一部の例外を除いて2.4GHz帯の周波数を使用しており、上記に記載した機器と同じ周波数であるということです。ドローンを飛行させている場所の近くで、他に電波を出している機器が存在するとその影響を受けてドローンは混信をする可能性があるということです。つまり、ドローンはプロポから指令がわからなくなるのです。これをノーコンと言います。

ノーコンは違う周波数からの影響も受けます。TV局(あるいは中継地)、携帯基地局、高圧線、変電所、フェリー等のレーザは、非常に巨力な電磁波をもっていますので、これらの影響を受けてノーコンに成りえます。強力な電磁波によってドローン内部の半導体が誤動作するという訳です。

以前、イベント等でドローンが墜落したというのがありましたが、このノーコンが原因という可能性もあります。大きなイベントほど、放送設備、WLAN等が設置されますので、それらの影響を受けやすい環境にあるのは事実です。

今時の撮影用で使用している高級ドローンは、ノーコンになるとGPS情報をもとに自動で離陸地点まで戻ってきて着陸します。そのため必要以上に怖がる事はないと思いますが、そのシステムも正常に働いていればこそのものです。 何かトラブルが発生してノーコンになっているわけですから、離陸地点まで戻ってくる機能も正常に動作するかは保障ありません。電磁波等によってフライトコントローラが正常に働いてなければ、全ての安全機能は働きません。過信はせずに常に注意深く飛行させる必要があります。

ドローンの飛行特性・注意点

もう一つ、とても重要なドローンの飛行特性ついて触れたいと思います。 ドローンとヘリコプタは、同じ回転翼でも飛行原理的には大きな違いがあります。それはロータのピッチが固定か可変かです。

下記の図はロータを横から見たときの図ですが、ロータ回転軸とロータ断面中心線との角度をピッチ角と言います。左側がプラスピッチの時の状態を表しており、揚力(浮力のことをいいます)は上に向かって発生します。右側がマイナスピッチの状態を表しており、揚力は下に発生します。   揚力が発生する仕組みを簡単に説明しますと、例えばロータがプラスピッチであれば、上図のようにロータ上面を流れる空気の距離は下面に対して弧が大きい分距離が長くなり、ロータ下面を流れる空気の距離は弧が小さい分短くなります。距離が長い上面は空気の流れが速くなりそして圧力は低くなります。距離の短い下面は、空気の流れは遅くなり圧力が高くなります。

つまり、上面は負圧、下面は正圧となり揚力が発生するのです。 これはとても不思議だと思いますが、ベルヌーイの定理といい空気だけではなく水も含めて全ての流体にはそのような特性があります。この原理は、例えば霧吹きに用いられてますし、走っている車の中で窓を少しだけ開けると、たばこの煙が外に出ていくのはこの現象なのです。

ヘリコプタの場合はこのピッチが可変の為、ロータの回転数は一定でも上昇したいときはプラスピッチ、下降したいときはマイナスピッチにすればよいのです。しかしながら、ドローンの場合はピッチ固定ですのでロータ回転数で調整するしかなく、上昇するときは回転数を上げ、下降するときは回転数を下げることで揚力を調整します。

回転数を下げるという事は、ロータは失速(揚力を失う)気味に下降するため、機体は非常に不安定になっています。フライトコントローラが一生懸命機体を制御しようとしているのに対し、ロータは必要な揚力を持っていないという状況になります。これはドローンの最大のウィークポイントです。実際にもドローンは降下中、かなりフラフラしています。

夏場の山あいや高層建物付近では上昇気流が強く、そのような場所で急激に降下すると条件によっては完全に失速し制御不能に陥る可能性があります。メーカ側も降下速度に関してはある程度リミットしていますので大丈夫だと思いますが、事故とは想定外の時に発生しますので注意することに越したことはありません。

そのような場所で垂直降下をしますとロータ真下から空気が当たり、更に失速しやすくなりますので、少し前進しロータ前縁に空気を当てながら降下するのが有効です。

ドローンは上昇は勢いよく行けますが、降下するときはゆっくりとしか出来ません。そのため、撮影時はバッテリーの残量に対して余裕をもって機体を戻す必要があります。撮影業者様はクライアント様にこのような事をご理解を頂くと事故のリスクも減るかと思います。

次回、法律関係のお話をしたいと思います。

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