*1 国総研に確認がとれましたので、記事を更新しました。(2022.7.30)
*2 一部修正、追記しました。(2022.12.15)
大変遅くなりましたが、第2回目の報告となります。DJI ZenmuseL1を使用し、道内の建築会社様と共同でレーザの性能や精度を確認してみました。目的は、まずはフェーズ1としてXYZ±10cm精度を達成するための計測方法の確立です。
検証時の使用機材・条件
- ハードウエア DJI Zenmuse L1 + DRTK2
- Pilot APP v2.4.1.7(最新はV4.0です)
- ソフトウエア
- DJI Terra:lasのエクスポート
- GreenVallery International LiDAR360:後処理用(ボア及び軌道などのストリップ調整)
- 福井コンピュータTREND-POINT:検証用
- 固定局として現場にDRTK2を設置
- 基準座標は、VRS測定(今回は評価の為、ちなみにi-construction等ではTS測定を規定)
- 天候晴れ、風弱、気温20度程度
関連パラメータの洗い出し
L1の精度を検証するうえで、精度に影響しそうなパラメータを以下にまとめてみました。
項目 | 説明 | |
Payload | Echo Mode | レーザのリターン数を選択する項目。 ・シングルリターン ・デュアル ・トリプル |
Lidar Sample Rate | 点群の取得幅。Step1は最大値固定、Step2で振る予定(理由は地面のみの対象には必要ないと判断)。 シングル:60、120、180、240KHz デュアル:60、120、180、240KHz トリプル:60、120、160Hz |
|
Scan Mode | スキャンモードを選択する項目。 ・Repeat ・Non-repeat |
|
Mappingツール | 高度 | Point Cloud Densityと連動。 |
速度 | 1~10m/s(ちなみに、最新のVer.4.0は1~3.9m/S) | |
Sidelap | 側部のオーバラップ | |
oblique | 評価対象外。 | |
DJI Terra | 最適化 | 評価対象外(どのような処理をおこなっているか不明なため) |
検証項目
これらのパラメータから検証項目を以下のように抽出しました。L1としては9項目、比較対象としてP1も入れました。(この報告では、以後P1は省きます)
検証項目 | Payload | Echo Mode | Scan Mode | 高度 | 速度 | Sidelap | oblique | Sample Rate | 備考 |
1 | P1 | Zenmuse P1 (要基準点、検証点) | GSD 1.0cm/pix | ||||||
2 | L1 | Triple | Repeat | 30m | 5m/s | 50% | 無 | 160Hz | |
3 | L1 | Triple | Repeat | 50m | 5m/s | 50% | 無 | 160Hz | Typ. |
4 | L1 | Triple | Repeat | 70m | 5m/s | 50% | 無 | 160Hz | |
5 | L1 | Triple | Repeat | 50m | 5m/s | 30% | 無 | 160Hz | |
6 | L1 | Triple | Repeat | 50m | 5m/s | 70% | 無 | 160Hz | |
7 | L1 | Triple | Non-repeat | 50m | 5m/s | 50% | 無 | 160Hz | |
8 | L1 | Single | Repeat | 50m | 5m/s | 50% | 無 | 160Hz | |
9 | L1 | Triple | Repeat | 50m | 3m/s | 50% | 無 | 160Hz | |
10 | L1 | Triple | Repeat | 50m | 7m/s | 50% | 無 | 160Hz |
L1の個体差
L1の個体差を確認するため、建築会社様の機材でも、基本項目による結果比較を行いました。
検証 項目 |
Payload | Echo Mode | Scan Mode | 高度 | 速度 | Sidelap | oblique | Sample Rate |
備考 |
2 | L1 | Triple | Repeat | 30m | 5m/s | 50% | 無 | 160Hz | |
3 | L1 | Triple | Repeat | 50m | 5m/s | 50% | 無 | 160Hz | Typ. |
6 | L1 | Triple | Repeat | 50m | 5m/s | 70% | 無 | 160Hz |
測定現場とGCP
測定現場には、基準点を水平調整用と高度調整用をそれぞれ3隅と中心に配置、高度調整用のみ4隅配置しました。
精度の結果
結果は、一部のみ記載します。結論としては、調整点による調整は行わなくとも、今回の条件では、XYZ±10cmは、高度50m、速度5m/s以下であれば達成可能となりました。下表に示す通り、L1の個体差もみられますが、特に大きな違いは見受けられませんでした。
検証項目 | Pay load |
Echo Mode | Scan Mode | 高度 | 速度 | Side lap |
弊社 L1 X/Y/Z(mm) GCP全ての振幅 |
H建設様 L1 X/Y/Z(mm) GCP全ての振幅 |
2 | L1 | Triple | Repeat | 30m | 5m/s | 50% | -64~-36/-46~ -28/-15~+9 |
-3~+11/-75~ -59/-25~+1 |
3 | L1 | Triple | Repeat | 50m | 5m/s | 50% | -34~+1/-83~ -38/-22~+10 |
-28~+7/-81~ -69/-21~+12 |
6 | L1 | Triple | Repeat | 50m | 5m/s | 70% | -32~-2/-76~ -40/-2~+16 |
-56~-2/-77~ -34/-15~+8 |
レーザスキャナーは、通常の写真測量とは大きく違い、次に示す考慮すべき事項があります。これらを実際に経験、検討していくことで多くのノウハウが蓄積しました。一部をご紹介します。
考慮すべき内容(1)精度確認方法
基準点配置に関するルール
3次元計測技術を用いた出来形管理要領(令和4年3月版)より抜粋
- 標高調整用基準点は、平坦で明瞭な地点を選定し計測点密度と同一半径の円又はおおむね2倍の辺長の正方形で作成した標識を水平に設置する。
- 水平調整用基準点は、地上から突出した直方体、球体、板、などの任意の形状で、水平位置(真値及び計測結果)が特定できるものを設置する。標識の大きさはLSの性能に留意して決定すること。
- x y z 座標が特定できる物(既存の構造物の角など、既存の明瞭な地物で、計測点群データから x y z 座標が特定できるもの)を用いることで、標高調整用基準点・検証点と水平調整用基準点・検証点を兼ねる事 が出来る。
2024.10.12追記
UAV搭載型レーザースキャナを用いた公共測量マニュアル(案)令和2年3月改正では、以下の様に定義されています。(こちらのほうが緩和されています)
3.水平位置の検証を行う場合は、水平位置を特定可能な大きさ及び形状で、地表から突出した
対空標識等を設置することを標準とする。ただし、レーザ計測点の反射強度を利用して水平位
置の特定が可能であれば、対空標識を十分に平らな地表面に設置してもよい。
4 標高だけの検証及び調整の場合は、対空標識を用いず十分に平らな地表面に設置できるもの
とする。
精度確認に関するルール
3次元計測技術を用いた出来形管理要領(令和4年3月版)より抜粋
5)で作成した計測点群データ上の検証点の座標と、上記 2 )により計測した検証点の座標
を比較し、xyz座標 それぞれ ±50mm 以内であることを確認する。
基準点の点群
実際に計測した基準点の見え方を、下図に示します。左側が地面に直接設置したもの、右側が三脚の上(水平に調整)に固定したものです。点群中のGL1-4やL1-4は、基準点座標の位置を表示(真値を測定したのは中心)。
条件2
条件3
条件4
実際の精度確認において、i-constructionのルールや検証に使用したソフトの仕様にいくつか疑問があり、ベンダー様にソフトの仕様を確認後、国総研様に精度確認方法を確認しました。国総研様から以下の回答を得ました。
水平調整用に関しては、RGB表示が可能なレーザスキャナーにおいて、中心を特定できる場合は、以下の様に補助線を引いて、真値を測った位置を特定すべきとのことです(公共測量マニュアル(案)令和2年3月改正においては、反射強度を利用できるとなっていることから、現在では変わっているかもしれません。追記2024.10.12)。設置した対空標識は600mm×600mmとあらかじめ大きさがわかっているため、例として下図のような補助線で明確にします。
このRGBで中心を特定する方法は、L1においては、条件3(高度50m)程度までが限界であり、条件4(高度70m)では、形状が不鮮明となり精度計測が困難であることがわかります。また、弊社対空標識を用いた場合、地面に直接設置と三脚上設置では、対空標識の形状によって、それぞれの鮮明度に差が出ます(ここでは図は省略します)。なお、RGB表示により水平位置を特定できない(しない)場合は、標高用とは別に、立体的な形状の物を用い水平位置を特定できるようにする必要があります。
上記、「RGBによる水平位置の特定」、「補助線を用いた真値測定箇所の特定」に関しては、国総研のQ&Aなどで正式オープンされた内容ではありませんので、関連業者様のLiDAR講習などにこの内容を使用しないで頂きます用、お願いいたします。(2022.09.07)
180219_QA_ULS.pdf (nilim.go.jp)
標高調整用に関しては、点群データの平均標高を計算する必要があります。理由は、レーザパルスは、放射した瞬間から広がりながら進んでいく特性があるため、標高調整用基準点に到達した際に、高さ(Z座標)への影響が生じてしまいます。
考慮すべき内容(2) レーザスキャナーの誤差原因
3次元計測技術を用いた出来形管理要領(令和4年3月版)より抜粋
UAVレーザーによる計測は、GNSS、IMU、LSの組み合わせによる3次元データ計測
となるため、複合的な要因により 測定 精度が決まる。GNSSの性能は、衛星の捕捉状況、機体のノイズ成分の影響により精度が低下する恐れがある。IMUの性能はレーザー発射時の姿勢角に影響し、レーザー計測データ端部の精度低下の原因となる。ロール、ピッチ成分は主に標高精度に影響し、ヘディング成分は、水平精度に影響する。また、LSは、ビームの拡散角の大きさが測距精度に影響する。このような精度低下の要因に留意した上で計測計画の立案することが重要となる。
実際にレーザスキャナーにて測定すると、下図のように地面の断面がずれて重なる現象が生じます。これは、ハードウエアだけでは、上記のメカニズムにより必ず発生する現象です。
LiDAR360を使用し、軌跡毎の点群の解析を行うと、下図の通りに、3つの軌道に対する点群が重なっているのがわかります。これらがずれていることで、上図のように3つ重なります。
構造物や自動車に関しても同様で、LiDAR360で軌跡毎の点群を解析をすると、青の点群に対して、水色の点群が大きくずれているのがわかります。
LiDAR360による後処理
LiDAR360を使用し、ストリップ調整を行うことで、それぞれの点群を補正し、薄い一つの層にすることが出来ます(地表の平均化処理は行っていません)。
<事例1>
<事例2>
まとめ
今回の共同検証により、高度50m以下、速度5m/S以下では、 XYZ ±100mm以内の精度を達成出来ることを確認できました。フェーズ1の完了です。
ボアや軌道による点群のずれは、ハードウエア及び計測時の設定だけでは補正できないため、LiDAR360にて後処理を行う必要があります。今回、そのソフトウエア(LiDAR360)の検証も出来ました。
尚、ここで記載しました情報はしかるべき機関に確認を行っていますが、私の認識違いもある可能性があります。すべての面において責任は負えませんので、各お客様で検証頂きます様、お願いいたします。
所感
LiDAR360は、既にバージョン7.台と歴史があるソフトであり、ボアサイト・ストリップ調整のみならず、フィルタリング性能はとても優秀で想像以上でした。
今回、LiDR360を実際に導入して感じたことは、ボアサイト・ストリップ調整の処理は、処理を一つ一つ行っていき状態を確認出来る為、どの誤差成分が大きく影響しているかを確認出来ます。反面、オペレーション処理が多くなるため複雑となりますが、ソフトウエアの改良が多く進んだ所でもあり、英語マニュアルが追い付いていない現状があります。また、機材がL1の場合、L1特有の処理も必要になります。弊社としては、メーカ直でサポートを受けながらも扱えるまでに半年程度かかった事から、これら内容やノウハウをリファレンスマニュアルとしてまとめています。英語マニュアルと販売会社様通した間接サポートでは、一連の後処理の取得は無理ですので、弊社のリファレンスマニュアルをご利用ください。
公共測量の実績(追記:2023.08.08)
測量会社のお客様ですが、弊社からLiDAR360を導入頂きサポートの結果、公共測量の検収がOKとなる実績が出来ましたので、ご連絡いたします。帳票に関してもご相談ください。不明な所はDJIに確認済でサポート可能です。
レーザスキャナー(Zenmuse L1)の性能・測量精度・ノウハウ 第3回(LiDARの原理的誤差に対するLiDAR360の後処理性能)
以上です。